2012年09月11日

赤と黒の殺人

いつの時だったか、避暑のために北海道を訪れたことがあった。
だから、季節は夏には違いない。
伯父が購入したらしい別荘に招かれて、僕は夏の数日を過ごしたのだが――。

伯父の別荘というのは、さながら古城のようだった。
建物の周囲には外敵の侵略を防ぐような高い壁と堀が巡り、立派な跳ね橋まであった。
ただ、試みに堀の中を覗けばゴミを積めた白いビニール袋がいくつも浮かんでいて、それにはいささか興ざめした。

伯父は、黄色を基調にした派手なアロハシャツ姿で僕を出迎えてくれた。

別荘に着いてすぐに天候が崩れ、雷をともなう激しい雨になった。
空には一面、どす黒い雲が渦巻いて、昼間だというのに外はもう真っ暗だった。
あと少し到着が遅れていたら、びしょ濡れになっていたに違いない。

部屋に荷物を置いた後、僕はラウンジを覗いてみた。
ラウンジには丸いテーブルがいくつか置かれていて、そこには三人の先客がいた。

中央付近のテーブルについているのは、二十四、五歳と見える女性。
ボブカットにした髪を茶色に染めて、赤いワンピースを着た肩にショールを羽織っていた。
右手には、カバーをつけた文庫本を持って、読書にふけっているようだった。

ラウンジは左が窓側になっていたが、その窓際のテーブルで雨を眺めている男。
スポーツマンなのか精悍な顔立ちの男で、浅黒い肌をして、癖のある黒髪を一本にしばっていた。
ベージュ色の服は、サファリジャケットか何かのようだった。

奥のテーブルにかけているのは、藍色の和服姿の三十路過ぎの女性。
左の目の下に泣きぼくろがあった。

ラウンジにいたのはこの三人である。
僕は、年齢が近く、いちばん話しやすそうだった、本を読んでいた女性に声をかけた。
彼女の方も退屈していたらしく、本を閉じて、僕の話し相手になってくれた。
僕らは、まず互いに簡単に自己紹介を交わした。
それによると、彼女はマリコという名前で、ファッション関係の仕事をしているということだった。
北海道へは一人で、夏季休暇をとって旅行をしていたそうだ。
伯父とは以前に仕事上での付き合いがあったらしい。ただ、伯父の話はあまりしたがらなかったので、僕も深くは詮索しなかった。

僕らが歓談を始めると、和服の女性が僕らのテーブルに近付いてきた。
「私もまぜてくれないかしら?」
女性はそう言ったのだが、その声が野太くかったので、僕とマリコさんは思わず視線を交わした。
どうやら、和服の女性は、実は男性で、女装をしているらしかった。

彼女(?)の名前は、カスミさんというそうだが、多分、本名ではない。
歌舞伎町でバーを経営しているらしく、伯父はそこの常連だったそうだ。
今よりも羽振りが良かった頃は、毎晩のようにバーに通っていたらしい。

そのうちに、窓際の男が席を立った。
彼は会話に加わるつもりはないらしく、そのままラウンジを出て行った。
テーブルの横を通り過ぎる時に、一度、彼と視線があったのだが、鋭い目つきをしていた。
僕らのテーブルが騒がしくなったのが不愉快だったのかもしれない。

それから、少し経った頃だった。
突然、ラウンジに耳を裂くような悲鳴が響き渡った。
僕ら三人は、顔を見合わせた。
「何かしら?」とカスミさんが言った。
「わかりませんが――、様子を行ってみましょうか?」
僕が提案すると、カスミさんは「そうね」と同意し、マリコさんも頷いた。

声は上の階から聞こえた気がしたので、僕らは階段を上った。
上の階では、赤い絨毯の敷かれた廊下が真っ直ぐに伸びていて、左手は窓、右手には部屋が並んでいた。
その内の一部屋のドアが大きく開け放たれており、僕らは中を覗き込んだ。

石造りの部屋だった。
アーチ型をした二つの窓があったが、両方とも開いていて、雨が吹き込むのに任せて、部屋の床を濡らしていた。
窓の手前にベッドがあって、その上に――伯父がいた。

カッと目を見開き、断末魔の叫びを上げた時そのままに大きく口を広げていた。
奇妙なことに、伯父の頭からは全ての髪の毛がなくなっていた。

それから、伯父の首には黒いケーブルのようなものが巻きついていた。
それは、どうやら携帯電話の充電ケーブルらしかった。
ベッドの上に、充電ケーブルに繫がった携帯電話が置かれていた。
それは、残骸と呼んで相応しく、黒焦げになり、カバーは弾け飛び、床に転がっていた。

充電ケーブルのもう一方の端は、コンセントに差してあったが、その差込口も黒く煤けていた。
あるいは、充電ケーブルも元は黒ではなく、別の色だったのかもしれない。

「まさか、感電――?」
カスミさんが言った。
折りしも、外は激しい雷雨だった。
コンセントから雷でも入ったのだろうか。
そう僕が思いかけた矢先に、マリコさんが「違うわ」と言った。
僕がマリコさんを見ると、彼女は黙って部屋の一箇所を指差した。
そこには壷が三つ並んで置かれていたが、その内の一つの口に、鮮血のような真新しい赤い液体が付着していた――。

僕は、ゆっくりと近付いて、壷の中を覗いた。
赤と黒の二色が、そこに渦巻いていた。
僕は思わず、一歩、後ずさっていた。僕の後ろから、少し遅れて覗き込んだ二人が悲鳴を上げた。
僕らが見たものは、血に染まった髪の束だった。
どうやら、伯父の頭から強引に引き抜かれたものらしい――。

「さっきの男は!?」
僕は少し高い声になって、女性二人に尋ねたが、彼女たちが知る由もない。
「とにかく、警察に知らせましょう」
カスミさんが言った。
僕らは頷きあうなり、階段を一気に駆け降りた。

降りしきる雨の中、僕は庭を駆け抜けた。
そして、門の前まで走ってきた時――、僕らは絶望した。
跳ね橋が、無残にも破壊されていた。
外敵の侵入を防ぐはずの堀が、今は僕らの脱出を不可能にしていた。

そして、堀の中に僕らは見た。
ゴミの中に交じって、髪を一本に結んだあの男の切断された頭部が、ごろり――、と転がっていた。

それだけではない。
僕はもう一つの恐ろしい事実に気が付いてしまった。
堀の向こう側の地面には踏み荒らされた形跡がまるでない。
そうだ、まるでないのだ!

僕が別荘に着いた時、伯父はまだ生きていた!
雷雨はすぐに降り出した!

ああ、何ということだ!
犯人はまだこの別荘の中にいるのだ――!

犯人はお前だ!

と言いたいところですが、実はこの辺で夢から覚めてしまい、犯人は結局わからずじまいです。

ただ、私の推理では犯人はカスミさんではないかと思います。
髪を結んだ男も共犯で、伯父を殺害したのは彼です。そして、その彼を殺害したのがカスミさんということになります。
もっとも、カスミさんは僕とずっと一緒に行動していたため、完全なアリバイがあるのですが、多分、跳ね橋に仕掛けがあって、髪を結んだ男が僕らを足止めするために跳ね橋を動かした際に、仕掛けが発動して、首を切断されてしまったのではないかと思います。

以上、久しぶりに見た夢のお話でした。


posted by ちんぺい at 23:59 | Comment(0) | こんな夢を見た
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