今日未明、ジョン・ドウ牧師が路上を全裸で徘徊していたところ、住民の通報により駆けつけた警察に公然猥褻の現行犯で逮捕された。
ジョン・ドウ牧師は礼拝での説教を終えた後、説教壇の階段の手すりを滑り台のようにして下りることで有名。
一世を風靡したが、近年はそれもマンネリ化して話題をひそめていた。
昨年になって、話題作りのために、十字架をスリング代わりにして飛んでいる野鳥を落とす芸を信者の前で披露するようになったが、これがプロテスタント教会や動物愛護団体からの批判を招き、牧師の職を失っていた。
取り調べに対し、ジョン・ドウ牧師は「裸になったことは認めるが、猥褻目的ではなかった」などと容疑を否認している。
警察では今後、ジョン・ドウ牧師の精神鑑定を含めて責任能力の有無を慎重に調べていく。
深層心理に迫る!
2013年07月06日
ジョン・ドウ牧師逮捕
posted by ちんぺい at 20:29
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| こんな夢を見た
2013年07月05日
白眉の善男と黒髪の悪女
バックミラー越しに、一台の車が見えた。
赤いポルシェだ。
左ハンドルを握っているのは、長い黒髪の女。
私はそれが悪女だと知っていた。
私は舌を打ってアクセルを全開にした。もっとも、悪女を引き離したのはほんのわずかな距離で、悪女の方も車を加速させてぴたりと追跡してきた。
どこまでも続くハイウェイで、カーチェイスが始まった。
キリキリとアスファルトの上で磨耗する音が、悲鳴のように運転席に鳴り響いていた。
私が運転する車の後部座席の下でうずくまっていた男が、リアガラス越しに後方を確認しようとして、するすると頭をもたげた。
この男は、どういうわけか髪の毛は黒々として若々しいのだが、眉毛だけが老人のように白かった。
「頭を低くしていろ!」
私が声を張り上げた直後、銃声が二つ聞こえて、リアガラスに同じ数だけの風穴があいた。
銃弾の一発はそのままフロントガラスをも貫通して、車よりも遙かに速いスピードで前方に消えていった。もう一発はシートに食い込んだようだった。
白眉はびくりとして、すぐに身を小さくした。
ハイウェイは、ちょうど大河の真上に差し掛かったところだった。
チャンスは今しかない――、と私は思った。
それまで、悪女の車から放たれる銃弾を、巧みなハンドル捌きで右に左に躱していた私だったが、折りしもタイヤが撃ち抜かれ、私の車はスリップして停車した。
それで、私は覚悟を決めた。
助手席に置いていた波動砲射出装置を肩に担いだ私は、前方に狙いを定めてぶっ放した。
青い光の帯が直進した先にあったハイウェイの左端のフェンスが綺麗さっぱり消滅した。
「ドアを開けろ! 飛び降りるんだ!」
私は白眉に命じてそう言った。
白い眉が驚いたように跳ね上がった。
「この高さからですか!? 死んでしまいます!」
「だが、何パーセントかの確率で助かるかもしれん。銃弾に立ち向かうよりも遙かに確率は高いぜ」
「――わかりました」
白眉は頭を低くしたまま、左のドアを開けた。
なおためらう白眉を叱咤するように私は言った。
「生きろ! 飛び降りるんだ!」
「ええい、神よ!」
白眉は自らを奮い立てるように声を上げると、ハイウェイの端から跳躍した。
悪女は急ハンドルを切り、車に乗ったまま白眉の後を追って飛び込んでいった。
*
大河が立てる波音をかき消して、機関銃の音が鳴り響いていた。
立ち泳ぎをしながら機関銃を撃っているのは白眉である。
悪女も水の中にいて、水面に浮かぶ車を橋頭堡にして白眉の説得を試みていた。
「抵抗はやめるのよ。あなたは私からは逃げられないわ」
「黙りなさい! あなたは悪い女です!」
「そうよ。でも、あなたは善い男だわ」
「いいえ、そんな言葉は聞きたくありません!」
白眉は悪女の言葉を遮るように、機関銃を撃った。
それでも、悪女には当てないように細心の注意を払っているようだった。
「無理よ。あなたに私は撃てないわ」
「なぜ、そう思うのです――?」
「私はあなたをためらいなく撃ち殺せるから」
「――」
悪女は、ちゃぷん、と音を立てて水中に潜り、一度、姿を消した。
次に姿を現した時、悪女は白眉の腕の中にいた。
「あなたは私を愛しているのね。だから、私はあなたを愛さない。あなたは私にすべてを与えてくれる。だから、私はあなたに何も与えない。それでも、あなたは私のためにだけ生きるの。私はあなたのためには生きないけれど。それで私たちはイーブン。あなたと私はそういう関係よ。これまでも、これからも。永遠にね。かわいそうな人――」
悪女は慰めるように、白眉の頰を撫でた。
白眉は、結局、悪女を強く抱きしめていた。
「ああ――。また、こうなってしまった」
白眉は嘆いたが、彼はそれで幸せだったのかもしれない。
深層心理に迫る!
赤いポルシェだ。
左ハンドルを握っているのは、長い黒髪の女。
私はそれが悪女だと知っていた。
私は舌を打ってアクセルを全開にした。もっとも、悪女を引き離したのはほんのわずかな距離で、悪女の方も車を加速させてぴたりと追跡してきた。
どこまでも続くハイウェイで、カーチェイスが始まった。
キリキリとアスファルトの上で磨耗する音が、悲鳴のように運転席に鳴り響いていた。
私が運転する車の後部座席の下でうずくまっていた男が、リアガラス越しに後方を確認しようとして、するすると頭をもたげた。
この男は、どういうわけか髪の毛は黒々として若々しいのだが、眉毛だけが老人のように白かった。
「頭を低くしていろ!」
私が声を張り上げた直後、銃声が二つ聞こえて、リアガラスに同じ数だけの風穴があいた。
銃弾の一発はそのままフロントガラスをも貫通して、車よりも遙かに速いスピードで前方に消えていった。もう一発はシートに食い込んだようだった。
白眉はびくりとして、すぐに身を小さくした。
ハイウェイは、ちょうど大河の真上に差し掛かったところだった。
チャンスは今しかない――、と私は思った。
それまで、悪女の車から放たれる銃弾を、巧みなハンドル捌きで右に左に躱していた私だったが、折りしもタイヤが撃ち抜かれ、私の車はスリップして停車した。
それで、私は覚悟を決めた。
助手席に置いていた波動砲射出装置を肩に担いだ私は、前方に狙いを定めてぶっ放した。
青い光の帯が直進した先にあったハイウェイの左端のフェンスが綺麗さっぱり消滅した。
「ドアを開けろ! 飛び降りるんだ!」
私は白眉に命じてそう言った。
白い眉が驚いたように跳ね上がった。
「この高さからですか!? 死んでしまいます!」
「だが、何パーセントかの確率で助かるかもしれん。銃弾に立ち向かうよりも遙かに確率は高いぜ」
「――わかりました」
白眉は頭を低くしたまま、左のドアを開けた。
なおためらう白眉を叱咤するように私は言った。
「生きろ! 飛び降りるんだ!」
「ええい、神よ!」
白眉は自らを奮い立てるように声を上げると、ハイウェイの端から跳躍した。
悪女は急ハンドルを切り、車に乗ったまま白眉の後を追って飛び込んでいった。
大河が立てる波音をかき消して、機関銃の音が鳴り響いていた。
立ち泳ぎをしながら機関銃を撃っているのは白眉である。
悪女も水の中にいて、水面に浮かぶ車を橋頭堡にして白眉の説得を試みていた。
「抵抗はやめるのよ。あなたは私からは逃げられないわ」
「黙りなさい! あなたは悪い女です!」
「そうよ。でも、あなたは善い男だわ」
「いいえ、そんな言葉は聞きたくありません!」
白眉は悪女の言葉を遮るように、機関銃を撃った。
それでも、悪女には当てないように細心の注意を払っているようだった。
「無理よ。あなたに私は撃てないわ」
「なぜ、そう思うのです――?」
「私はあなたをためらいなく撃ち殺せるから」
「――」
悪女は、ちゃぷん、と音を立てて水中に潜り、一度、姿を消した。
次に姿を現した時、悪女は白眉の腕の中にいた。
「あなたは私を愛しているのね。だから、私はあなたを愛さない。あなたは私にすべてを与えてくれる。だから、私はあなたに何も与えない。それでも、あなたは私のためにだけ生きるの。私はあなたのためには生きないけれど。それで私たちはイーブン。あなたと私はそういう関係よ。これまでも、これからも。永遠にね。かわいそうな人――」
悪女は慰めるように、白眉の頰を撫でた。
白眉は、結局、悪女を強く抱きしめていた。
「ああ――。また、こうなってしまった」
白眉は嘆いたが、彼はそれで幸せだったのかもしれない。
深層心理に迫る!
posted by ちんぺい at 23:03
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2012年09月11日
赤と黒の殺人
いつの時だったか、避暑のために北海道を訪れたことがあった。
だから、季節は夏には違いない。
伯父が購入したらしい別荘に招かれて、僕は夏の数日を過ごしたのだが――。
伯父の別荘というのは、さながら古城のようだった。
建物の周囲には外敵の侵略を防ぐような高い壁と堀が巡り、立派な跳ね橋まであった。
ただ、試みに堀の中を覗けばゴミを積めた白いビニール袋がいくつも浮かんでいて、それにはいささか興ざめした。
伯父は、黄色を基調にした派手なアロハシャツ姿で僕を出迎えてくれた。
別荘に着いてすぐに天候が崩れ、雷をともなう激しい雨になった。
空には一面、どす黒い雲が渦巻いて、昼間だというのに外はもう真っ暗だった。
あと少し到着が遅れていたら、びしょ濡れになっていたに違いない。
部屋に荷物を置いた後、僕はラウンジを覗いてみた。
ラウンジには丸いテーブルがいくつか置かれていて、そこには三人の先客がいた。
中央付近のテーブルについているのは、二十四、五歳と見える女性。
ボブカットにした髪を茶色に染めて、赤いワンピースを着た肩にショールを羽織っていた。
右手には、カバーをつけた文庫本を持って、読書にふけっているようだった。
ラウンジは左が窓側になっていたが、その窓際のテーブルで雨を眺めている男。
スポーツマンなのか精悍な顔立ちの男で、浅黒い肌をして、癖のある黒髪を一本にしばっていた。
ベージュ色の服は、サファリジャケットか何かのようだった。
奥のテーブルにかけているのは、藍色の和服姿の三十路過ぎの女性。
左の目の下に泣きぼくろがあった。
ラウンジにいたのはこの三人である。
僕は、年齢が近く、いちばん話しやすそうだった、本を読んでいた女性に声をかけた。
彼女の方も退屈していたらしく、本を閉じて、僕の話し相手になってくれた。
僕らは、まず互いに簡単に自己紹介を交わした。
それによると、彼女はマリコという名前で、ファッション関係の仕事をしているということだった。
北海道へは一人で、夏季休暇をとって旅行をしていたそうだ。
伯父とは以前に仕事上での付き合いがあったらしい。ただ、伯父の話はあまりしたがらなかったので、僕も深くは詮索しなかった。
僕らが歓談を始めると、和服の女性が僕らのテーブルに近付いてきた。
「私もまぜてくれないかしら?」
女性はそう言ったのだが、その声が野太くかったので、僕とマリコさんは思わず視線を交わした。
どうやら、和服の女性は、実は男性で、女装をしているらしかった。
彼女(?)の名前は、カスミさんというそうだが、多分、本名ではない。
歌舞伎町でバーを経営しているらしく、伯父はそこの常連だったそうだ。
今よりも羽振りが良かった頃は、毎晩のようにバーに通っていたらしい。
そのうちに、窓際の男が席を立った。
彼は会話に加わるつもりはないらしく、そのままラウンジを出て行った。
テーブルの横を通り過ぎる時に、一度、彼と視線があったのだが、鋭い目つきをしていた。
僕らのテーブルが騒がしくなったのが不愉快だったのかもしれない。
それから、少し経った頃だった。
突然、ラウンジに耳を裂くような悲鳴が響き渡った。
僕ら三人は、顔を見合わせた。
「何かしら?」とカスミさんが言った。
「わかりませんが――、様子を行ってみましょうか?」
僕が提案すると、カスミさんは「そうね」と同意し、マリコさんも頷いた。
声は上の階から聞こえた気がしたので、僕らは階段を上った。
上の階では、赤い絨毯の敷かれた廊下が真っ直ぐに伸びていて、左手は窓、右手には部屋が並んでいた。
その内の一部屋のドアが大きく開け放たれており、僕らは中を覗き込んだ。
石造りの部屋だった。
アーチ型をした二つの窓があったが、両方とも開いていて、雨が吹き込むのに任せて、部屋の床を濡らしていた。
窓の手前にベッドがあって、その上に――伯父がいた。
カッと目を見開き、断末魔の叫びを上げた時そのままに大きく口を広げていた。
奇妙なことに、伯父の頭からは全ての髪の毛がなくなっていた。
それから、伯父の首には黒いケーブルのようなものが巻きついていた。
それは、どうやら携帯電話の充電ケーブルらしかった。
ベッドの上に、充電ケーブルに繫がった携帯電話が置かれていた。
それは、残骸と呼んで相応しく、黒焦げになり、カバーは弾け飛び、床に転がっていた。
充電ケーブルのもう一方の端は、コンセントに差してあったが、その差込口も黒く煤けていた。
あるいは、充電ケーブルも元は黒ではなく、別の色だったのかもしれない。
「まさか、感電――?」
カスミさんが言った。
折りしも、外は激しい雷雨だった。
コンセントから雷でも入ったのだろうか。
そう僕が思いかけた矢先に、マリコさんが「違うわ」と言った。
僕がマリコさんを見ると、彼女は黙って部屋の一箇所を指差した。
そこには壷が三つ並んで置かれていたが、その内の一つの口に、鮮血のような真新しい赤い液体が付着していた――。
僕は、ゆっくりと近付いて、壷の中を覗いた。
赤と黒の二色が、そこに渦巻いていた。
僕は思わず、一歩、後ずさっていた。僕の後ろから、少し遅れて覗き込んだ二人が悲鳴を上げた。
僕らが見たものは、血に染まった髪の束だった。
どうやら、伯父の頭から強引に引き抜かれたものらしい――。
「さっきの男は!?」
僕は少し高い声になって、女性二人に尋ねたが、彼女たちが知る由もない。
「とにかく、警察に知らせましょう」
カスミさんが言った。
僕らは頷きあうなり、階段を一気に駆け降りた。
降りしきる雨の中、僕は庭を駆け抜けた。
そして、門の前まで走ってきた時――、僕らは絶望した。
跳ね橋が、無残にも破壊されていた。
外敵の侵入を防ぐはずの堀が、今は僕らの脱出を不可能にしていた。
そして、堀の中に僕らは見た。
ゴミの中に交じって、髪を一本に結んだあの男の切断された頭部が、ごろり――、と転がっていた。
それだけではない。
僕はもう一つの恐ろしい事実に気が付いてしまった。
堀の向こう側の地面には踏み荒らされた形跡がまるでない。
そうだ、まるでないのだ!
僕が別荘に着いた時、伯父はまだ生きていた!
雷雨はすぐに降り出した!
ああ、何ということだ!
犯人はまだこの別荘の中にいるのだ――!
犯人はお前だ!
だから、季節は夏には違いない。
伯父が購入したらしい別荘に招かれて、僕は夏の数日を過ごしたのだが――。
伯父の別荘というのは、さながら古城のようだった。
建物の周囲には外敵の侵略を防ぐような高い壁と堀が巡り、立派な跳ね橋まであった。
ただ、試みに堀の中を覗けばゴミを積めた白いビニール袋がいくつも浮かんでいて、それにはいささか興ざめした。
伯父は、黄色を基調にした派手なアロハシャツ姿で僕を出迎えてくれた。
別荘に着いてすぐに天候が崩れ、雷をともなう激しい雨になった。
空には一面、どす黒い雲が渦巻いて、昼間だというのに外はもう真っ暗だった。
あと少し到着が遅れていたら、びしょ濡れになっていたに違いない。
部屋に荷物を置いた後、僕はラウンジを覗いてみた。
ラウンジには丸いテーブルがいくつか置かれていて、そこには三人の先客がいた。
中央付近のテーブルについているのは、二十四、五歳と見える女性。
ボブカットにした髪を茶色に染めて、赤いワンピースを着た肩にショールを羽織っていた。
右手には、カバーをつけた文庫本を持って、読書にふけっているようだった。
ラウンジは左が窓側になっていたが、その窓際のテーブルで雨を眺めている男。
スポーツマンなのか精悍な顔立ちの男で、浅黒い肌をして、癖のある黒髪を一本にしばっていた。
ベージュ色の服は、サファリジャケットか何かのようだった。
奥のテーブルにかけているのは、藍色の和服姿の三十路過ぎの女性。
左の目の下に泣きぼくろがあった。
ラウンジにいたのはこの三人である。
僕は、年齢が近く、いちばん話しやすそうだった、本を読んでいた女性に声をかけた。
彼女の方も退屈していたらしく、本を閉じて、僕の話し相手になってくれた。
僕らは、まず互いに簡単に自己紹介を交わした。
それによると、彼女はマリコという名前で、ファッション関係の仕事をしているということだった。
北海道へは一人で、夏季休暇をとって旅行をしていたそうだ。
伯父とは以前に仕事上での付き合いがあったらしい。ただ、伯父の話はあまりしたがらなかったので、僕も深くは詮索しなかった。
僕らが歓談を始めると、和服の女性が僕らのテーブルに近付いてきた。
「私もまぜてくれないかしら?」
女性はそう言ったのだが、その声が野太くかったので、僕とマリコさんは思わず視線を交わした。
どうやら、和服の女性は、実は男性で、女装をしているらしかった。
彼女(?)の名前は、カスミさんというそうだが、多分、本名ではない。
歌舞伎町でバーを経営しているらしく、伯父はそこの常連だったそうだ。
今よりも羽振りが良かった頃は、毎晩のようにバーに通っていたらしい。
そのうちに、窓際の男が席を立った。
彼は会話に加わるつもりはないらしく、そのままラウンジを出て行った。
テーブルの横を通り過ぎる時に、一度、彼と視線があったのだが、鋭い目つきをしていた。
僕らのテーブルが騒がしくなったのが不愉快だったのかもしれない。
それから、少し経った頃だった。
突然、ラウンジに耳を裂くような悲鳴が響き渡った。
僕ら三人は、顔を見合わせた。
「何かしら?」とカスミさんが言った。
「わかりませんが――、様子を行ってみましょうか?」
僕が提案すると、カスミさんは「そうね」と同意し、マリコさんも頷いた。
声は上の階から聞こえた気がしたので、僕らは階段を上った。
上の階では、赤い絨毯の敷かれた廊下が真っ直ぐに伸びていて、左手は窓、右手には部屋が並んでいた。
その内の一部屋のドアが大きく開け放たれており、僕らは中を覗き込んだ。
石造りの部屋だった。
アーチ型をした二つの窓があったが、両方とも開いていて、雨が吹き込むのに任せて、部屋の床を濡らしていた。
窓の手前にベッドがあって、その上に――伯父がいた。
カッと目を見開き、断末魔の叫びを上げた時そのままに大きく口を広げていた。
奇妙なことに、伯父の頭からは全ての髪の毛がなくなっていた。
それから、伯父の首には黒いケーブルのようなものが巻きついていた。
それは、どうやら携帯電話の充電ケーブルらしかった。
ベッドの上に、充電ケーブルに繫がった携帯電話が置かれていた。
それは、残骸と呼んで相応しく、黒焦げになり、カバーは弾け飛び、床に転がっていた。
充電ケーブルのもう一方の端は、コンセントに差してあったが、その差込口も黒く煤けていた。
あるいは、充電ケーブルも元は黒ではなく、別の色だったのかもしれない。
「まさか、感電――?」
カスミさんが言った。
折りしも、外は激しい雷雨だった。
コンセントから雷でも入ったのだろうか。
そう僕が思いかけた矢先に、マリコさんが「違うわ」と言った。
僕がマリコさんを見ると、彼女は黙って部屋の一箇所を指差した。
そこには壷が三つ並んで置かれていたが、その内の一つの口に、鮮血のような真新しい赤い液体が付着していた――。
僕は、ゆっくりと近付いて、壷の中を覗いた。
赤と黒の二色が、そこに渦巻いていた。
僕は思わず、一歩、後ずさっていた。僕の後ろから、少し遅れて覗き込んだ二人が悲鳴を上げた。
僕らが見たものは、血に染まった髪の束だった。
どうやら、伯父の頭から強引に引き抜かれたものらしい――。
「さっきの男は!?」
僕は少し高い声になって、女性二人に尋ねたが、彼女たちが知る由もない。
「とにかく、警察に知らせましょう」
カスミさんが言った。
僕らは頷きあうなり、階段を一気に駆け降りた。
降りしきる雨の中、僕は庭を駆け抜けた。
そして、門の前まで走ってきた時――、僕らは絶望した。
跳ね橋が、無残にも破壊されていた。
外敵の侵入を防ぐはずの堀が、今は僕らの脱出を不可能にしていた。
そして、堀の中に僕らは見た。
ゴミの中に交じって、髪を一本に結んだあの男の切断された頭部が、ごろり――、と転がっていた。
それだけではない。
僕はもう一つの恐ろしい事実に気が付いてしまった。
堀の向こう側の地面には踏み荒らされた形跡がまるでない。
そうだ、まるでないのだ!
僕が別荘に着いた時、伯父はまだ生きていた!
雷雨はすぐに降り出した!
ああ、何ということだ!
犯人はまだこの別荘の中にいるのだ――!
犯人はお前だ!
posted by ちんぺい at 23:59
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